プログラムレポート
「こども店長」実態把握調査の報告:バザール日記
公開日:2023年05月23日
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こどもバザール
『ま・あ・る』の様々な事業でご協力をいただいている、名倉先生(2023年3月まで静岡県立短期大学部助教/2023年4月より佐賀大学教育学部准教授)にご協力いただき『どのような児童が「こども店長」として活動しているのか』について調査をしていただきました。
どのような調査結果になったのか、名倉先生のレポートを抜粋しながらご報告いたします。
【実態調査の経緯】
『ま・あ・る』は、日本初の「こどものまち」を目的とする常設型施設であり、全国的にみても大変貴重な場所です。多くの「こどものまち」はイベント型で行われていますが、『ま・あ・る』には「こどもバザール」のための空間が用意されており、他と比べると、子どもが継続的に参加しやすいという大きな特徴があります。遊びに来てくださる子どもたちは、静岡市を中心に広い範囲から集まっており、小学校の異なる子ども同士が、活動を通して新たな出会いをし、関係を育んでいきますが、中でも、自ら「こども店長」を希望した子どもたちは、この活動に継続的に参加を希望しており「こどもバザール」により強い魅力を感じていると考えられます。
そこで本調査では、「こどもバザール」の「こども店長」になった子どもについて、その実態を詳しく把握したいと考えていました。「こども店長」の子どもたちの実態を知ることで、こうした活動に魅力を感じている子どもの特徴を明らかにするとともに、「こどもバザール」に対するニーズを把握できればと思い、調査する運びとなりました。
【調査方法】
2022年7月、「こども店長」と保護者計46組(4年生6組、5年生16組、6年生24組)にアンケート調査を行いました。アンケート項目は、ベネッセ教育総合研究所の東京大学社会科学研究所附属社会調査「子どもの生活と学びに関する親子調査」2018から抽出して作成しました。
【調査結果:調査からみえてきた「こども店長」の3つの実態】
全国の平均データと比較をして差がみられた項目をもとに、「こども店長」の特徴について分析していただきました。その結果、次の3つの特徴が浮かび上がりました。
①考えたり調べたりすることが得意な「思考探求型」の子どもが多い(運動よりも)
こども店長への質問項目「得意・不得意(図1)」「自分のこと(図2)」の結果から、こども店長は、全国平均と比べると、考えたり調べたり、文章を書いたりすることが得意で、自ら勉強に取り組むことができる「思考探求型」児童が多いことがわかりました。身体を動かすことよりもこうした活動を好む傾向にありました。また周囲のために自己抑制ができ、失敗に抵抗を感じやすく、新しいことへの挑戦に慎重な児童が多いことも明らかになりました。
②親は自分を尊重してくれていると感じている(良好な親子関係)
こども店長への質問項目「人間関係(図3)」「親(図4)」の結果から、こども店長は、全国平均と比べると、自分の親について、大人と対等に扱ってくれ、気持ちを分かってくれ、約束を守ってくれると感じている児童が多く、親に感謝しており、親に逆らうことが少ない傾向がみられました。
③経済面でも生活面でも安定した家庭環境の子どもが多い
保護者への質問項目「悩み(図5)」「教育費(図6・7)」、こども店長への質問項目「習い事・塾(図8・9)」の結果から、こども店長の保護者は、全国平均と比べると、経済的な悩みが少なく、子どもにかける教育費も高い傾向がみられました。また、こども店長は全国平均と比べて、塾や習い事に通う割合が高いこともわかりました。
【本調査からの考察】
●3つの特徴
本調査結果から、「こどもバザール」に参加する「こども店長」には、①調べたり考えたりすることが得意な「思考探求型」、②親は子どもを尊重してくれていると感じている(良好な親子関係)、③経済面でも生活面でも安定した家庭環境、といった3つの特徴がみられました。こうした特徴を持つ児童が、「こどもバザール」の活動に魅力を感じやすく、積極的・継続的に参加をしているようです。
●特徴を踏まえた「こどもバザール」の今後
「こども店長」には、調べたり考えたりすることが得意な「思考探求型」の子どもが多いため、今後の「こどもバザール」では、こうした子どもたちの得意なことである、考えたり調べたりすることをたっぷり体験できる活動をさらに充実させていくことが必要といえます。
一方、「こども店長」の中には、自己抑制が強く、新しいことや難しいことに挑戦するのにやや抵抗を感じる子どもたちがいることも明らかになりました。「こどもバザール」の中で、他の子どもたちと試行錯誤を繰り返し、その子らしさを発揮し成功体験を積み重ねていくことを通して、挑戦意欲を育むことも求められるでしょう。
「こどもバザール」に参加するこども店長は、経済面でも生活面でも安定した家庭環境の子どもが多いことも明らかとなりました。『ま・あ・る』は「未来の静岡市を担う人材育成」という目的があります。小学生が、「こどもバザール」のような地域の創造的な体験活動の場に継続参加することは、こうした目的の達成につながると思われます。けれども『ま・あ・る』は学校とは異なり、小学生が参加するためには保護者の理解や送迎等の協力が欠かせません。そのため、本調査で明らかになったように、ある程度ゆとりのある家庭環境の児童が集まる傾向にあるのでしょう。
今後は、こうしたこども店長の特徴を踏まえながら、「こどもバザール」の展開について考えていくことで、より子どもの実態に即した活動展開や、新たな取り組みの方向性がみえてくると思われます。
●本調査の課題点
この調査は、ある特定の期間にこども店長になった46名の児童のみを対象をしているため、偶然、この46名が持つ特徴であった可能性も否めません。さらに適切な実態把握を行うためには、より多くのこども店長を対象に調査を続けることが必要です。
また今回の調査は、対象をこども店長に限って行いましたが、「こどもバザール」に参加するのは、こども店長だけでなく、その他の多くの子どもたちです。今後は、こうした子どもたちの実態も把握することで、新たに見えてくることもあるでしょう。
以上となりました。いかがでしたでしょうか。
最後に、現状と比較をして考察したいと思います。
コロナ禍前までは土日祝と長期休暇の平日は毎日自由に利用することのできた「こどもバザール」も、コロナ禍に入り安心安全を第一に考え運営するために“完全予約制”の期間が続きました。
(2023年4月8日から「こどもバザール」は予約不要でご利用いただけるようになりました。)
それに伴い「こども店長」の活動もシフト制になったり、分散型でこども会議を実施したりと制約が多くなり、「こども店長」の活動を続けていただくには「こども店長のスケジュール管理ができること」と「こども店長の活動時間に合わせた送迎ができること」をクリアできることが前提となった側面があります。
このような背景から、本調査にご協力いただいたコロナ禍に入ってからの「こども店長」は、実態調査の3つの特徴の「③経済面でも生活面でも安定した家庭環境」に結びついたのではないかと考えます。
今回、初めて「こども店長」の実態調査を行ったため、コロナ禍前の「こども店長」の実態と比較できないことがとても残念です。
本来「こどもバザール」は、年齢も、学校も、家庭環境も異なる様々な子どもたちが、それぞれの今ある状態で気軽に楽しく活動ができる「場所」です。
コロナ禍の緩和が進むなかで、少しずつ、コロナ禍にできたワクを外していきたいです。
そして、様々な子どもたちが「こどもバザール」に興味を持ち、「もっと楽しいバザールをつくりたい!」「自分だったらこうしたい!」という意欲を持って「こども店長」として「こどもバザール」の運営に関わることができる日が戻ってくることを願っています。
最後にこの場をかりまして、本調査を行っていただきました名倉先生と、ご協力くださいました第35期のこども店長そして保護者の皆様に心より御礼申し上げます。
【名倉先生の本調査のまとめ(概要)】